ホームページ制作の業務委託契約書とは?トラブル予防のポイントを解説

ホームページ制作で制作会社と交わす業務委託契約書は、トラブルの防止に重要なものです。契約書の重要性は認識していても、具体的にどうすればいいかわからず困っている方も多いのではないでしょうか。

そこで本コラムでは、ホームページ制作の業務委託契約書について詳しく解説します。トラブル例や具体的に気をつけるべきポイントもわかるので、ぜひ参考にしてください。

ホームページ制作に関する契約書とは?

ホームページ制作会社と交わす契約書には、次のようなものがあります。

  • Webサイト制作業務委託契約書
  • Webサイト保守業務委託契約書
  • Webサイト制作業務請負契約書
  • 秘密保持契約書

それぞれどのような契約書なのか解説します。

Webサイト制作業務委託契約書

自社のホームページ制作業務を、制作会社に委託するときに交わす契約書です。

業務委託契約とは、自社の業務を他者に委託する契約のこと。外注するときに交わす契約書と考えるとわかりやすいでしょう。

しかし、民法に業務委託契約という言葉は出てきません。業務委託契約として締結されている契約は、民法では請負契約か準委任契約のどちらかに該当します。

請負契約仕事の完成(成果物の納品)を目的とする契約
準委任契約業務の遂行を目的とする契約

ホームページ制作で交わす契約書の多くは、民法632条に定められた「請負契約」です。

(請負)

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法 | e-Gov法令検索

ホームページ制作の請負契約は、制作会社と発注者がそれぞれ次の約束をすることによって成立します。

  • 制作会社がホームページの完成を約束する
  • 発注者がホームページの完成に対して報酬を支払うことを約束する

Webサイト保守業務委託契約書

ホームページの保守業務を外注するときに交わす契約書です。保守業務として、例えば次のような業務を外注します。

  • ドメイン契約の更新
  • サーバー契約の更新
  • サーバーデータのバックアップ
  • データベースの障害対応
  • セキュリティ対策
  • WordPressエラー対応
  • WordPressのバージョンアップ対応
  • ブラウザ更新対応

なお、SEO対策や広告運用などホームページの運用業務も、保守業務委託契約書に含む場合があります。

Webサイト制作業務請負契約書

Webサイト制作業務委託契約書と同じく、ホームページ制作を外注するときに交わす契約書です。

以下2つの契約書はどちらも通常は請負契約なので、契約の性質は変わりません。

  • Webサイト制作業務委託契約書
  • Webサイト制作業務請負契約書

しかし、業務委託には請負契約と準委任契約の2つがあるため、契約の種類をめぐって認識の食い違いが生じる可能性もあります。このような争いを避けるために、請負契約なら「請負契約書」としておくほうが無難です。

秘密保持契約書

業者と取引する際は、社外に漏らしたくない次のような秘密情報をやり取りするケースが大半です。

  • サーバー・ドメインのアカウント情報
  • CMSのアカウント情報
  • 事業計画に関する情報

そこで秘密を守るために、以下のように禁止事項や注意して管理する義務を秘密保持契約書で明らかにしておきます。

  • 秘密情報を無断で第三者に開示してはならない
  • 秘密情報が漏洩しないように注意して管理しなければならない

なお、秘密保持契約は必ずしも秘密保持契約書といったタイトルの書面で締結する必要はありません。契約書のタイトルにかかわらず、「秘密保持条項」を設けて契約を締結するケースもあります。

ホームページ制作の契約トラブル

ホームページ制作を制作会社に依頼した後、以下のような契約トラブルが発生することがあります。

  • クオリティが低かった
  • 修正を依頼すると追加費用を請求された
  • 納期・スケジュールが守られない
  • ブラウザによって表示崩れが発生してしまう
  • CMSの操作をサポートしてくれなかった
  • 著作権がなくリニューアルできなかった

契約書には、トラブルの発生を防止したり、発生したときは迅速に解決を図ったりする機能があります。ありがちなトラブルを事前に把握しておくと、より良い契約を締結できるでしょう。

クオリティが低かった

発注時の想定と比べて、実際に納品されたホームページのクオリティが低いと感じることもあるでしょう。よくある原因はコミュニケーション不足です。

制作会社としては発注者が求めるクオリティがわからないと制作を進めにくいので、発注者は要望を伝えることが重要といえます。

契約の観点からは、事前に話し合って決めたクオリティを満たしているかどうかが問題です。契約で具体的に定めていなかった場合、「契約に適合していない」として制作会社に修正を求めることは難しくなります。

修正を依頼すると追加費用を請求された

デザインやクオリティに納得がいかず修正を依頼すると、制作会社から追加費用を請求されることもあります。無償で修正してくれると思っていた場合は、想定外の請求に戸惑ってしまうでしょう。

制作会社の立場を考慮すると、見積時の想定より修正依頼回数が多かったり、想定よりも高いクオリティを要求されたりしているのかもしれません。

事前に修正回数やクオリティを話し合って契約書に盛り込んでおくと、防げるトラブルといえます。

納期・スケジュールが守られない

ホームページの納品期日や、事前に取り決めていた進行スケジュールが守られないケースもあります。

遅延の理由はさまざまですが、単に制作会社側のスケジュール管理が甘いケースもあれば、想定よりも修正回数が多くデザインの確定が遅れてしまうケースもあるでしょう。

プロジェクトの進行面からすると、進捗状況をこまめに確認したり、認識の齟齬がないよう緊密に連携をとったりなど良好なコミュニケーションをとることが重要です。

契約の観点からは、スケジュールに関して連絡義務(通知義務)を定めておくほか、納期遅延時の対応を定めておくなどの対応が考えられます。

ブラウザによって表示崩れが発生してしまう

ユーザーが使用するブラウザは1つだけではありません。ChromeやSafarなど、ブラウザの種類によっては、表示が崩れてしまう場合があります。

表示崩れの発生も、事前に対応するブラウザを話し合って契約書に盛り込んでおくと対策が可能です。契約締結後に対応してほしいブラウザを制作会社に伝えるのは追加依頼と捉えられ、追加費用を請求される可能性が高いでしょう。

CMSの操作をサポートしてくれなかった

CMSの操作を教えてくれると考えていても、制作会社から対応範囲外といわれることもあります。制作会社のホームページにCMS操作をサポートする旨の記載があっても、保守契約の締結を前提としている場合もあるので注意が必要です。

導入予定のCMSについて操作に不安がある場合は、事前に制作会社と話し合ってサポートしてもらえるか確認しましょう。

著作権がなくリニューアルできなかった

制作会社からホームページを納品された後、著作権がないためリニューアルできないといったトラブルもあります。

ホームページは制作会社が作るので、納品前の著作権は制作会社に帰属します。さらに、納品後も著作権が制作会社に残る契約になっているケースがあるようです。

著作権が制作会社に残っていると、リニューアル時に別の制作会社に依頼したくても「うちのデザインは渡せません」といわれる可能性があるので注意してください。

Webサイト制作契約書でチェックすべき条項

ホームページ制作を依頼するときに交わす契約書の内容について、発注者側は何を注意すればよいかを解説します。

業務の内容・範囲(仕様書)

認識の違いから生じるトラブルを防ぐため、業務の内容や範囲は具体的に記載しましょう。

単にホームページ制作業務とするだけでは、認識の違いが生じやすくなります。「委託する業務の具体的な内容や範囲は別に仕様書で定める」などとして、具体的な内容を仕様書に定めておくのがおすすめです。

仕様書の形式をとるのが難しい場合は、箇条書きで記した機能の一覧や、簡単なワイヤーフレームを添付しておくとよいでしょう。

関連記事:サイトやホームページ制作に必要な仕様書とは?書き方や作り方を解説

納期

発注者からすると、納期が口約束にとどまるのは避けるべきです。口約束は時間が経つと言った言わない問題が生じやすく、もし裁判になった場合には第三者である裁判官に納期を証明する手立てはありません。

納期は契約書で特定できるようにしておき、納期遅れが生じた場合はどのような対応をとるかも明らかにしておきましょう。

代金・報酬と支払日

報酬の未払いを避けるため、契約書には報酬を明確に記載します。合意済みの見積書を契約書に添付して、「報酬は別紙見積書のとおり」と参照する形でも問題ありません。

また、金額だけでなく支払日を明確にしておくことも重要です。「支払日は、検査終了日から2週間以内とする」のように決めておきましょう。

なお、制作会社によっては制作前の着手時に着手金の支払いを求められることもあります。

著作権

著作権とは、著作者を保護するため、勝手に著作物を複製されたり、公開されたりしない権利です。所有権とは異なることに注意してください。

ホームページ制作においては、次のものが著作権法における著作物に該当する可能性があります。

  • 設計書
  • デザイン・レイアウト
  • コンテンツ
  • 写真
  • 動画
  • 音楽

納品されたデザインやコンテンツの著作権が制作会社に帰属したままでは、ホームページの編集や更新に支障が出てしまいます。そのため、著作権が制作会社から自社に移転される契約になっているか確認しておきましょう。

再委託

ホームページを制作するために、制作会社が外部のライターやデザイナーにコンテンツの制作を外注することがあります。もともと発注者が制作会社に外注していたので、制作会社がさらに外注することは再委託です。

建設物を建築するときに元請事業者と下請事業者がいるように、請負契約では再委託も民法で禁止されていません。

しかし、発注者は数ある制作会社の中から信頼できる制作会社を選んだはずです。発注者は、知らない別の業者に外注されることについて良い気がしないかもしれません。

再委託を全面的に禁止するのは困難な場合が多いので、次のような取り決めができないか制作会社と交渉するとよいでしょう。

  • 再委託するときは事前の承諾を求める
  • 制作会社と同等の責任を負わせることを制作会社に義務付ける

検収の期間

納品されたホームページが仕様どおりか確認する期間を検収期間といいます。問題なければ検収合格として、制作会社に代金を支払います。

制作会社の立場からは、納品後はできる限り早く検収してもらって代金の支払いを受けたいはずです。業務が忙しいからといって検収が引き延ばされると、いつまで経っても代金の支払いを受けられません。

一方で、発注者の立場からは問題に気づかないまま代金を支払うのは避けたいので、時間をかけて確認したいと考えるはずです。そのため、発注者としてはできる限り長い検収期間を設けてもらうよう制作会社と交渉しましょう。

契約不適合責任

納品されたホームページの検収が完了した後に品質が契約と異なることがわかった場合でも、発注者は1年以内に制作会社に対して修正や代金減額などの請求が可能です。制作会社からみて、このような請求に対応する責任のことを契約不適合責任といいます。

契約不適合責任は民法に定められているので、原則どおりの適用を望むならあえて契約書に記載する必要はありません。しかし、契約不適合責任を負う期間の短縮や、そもそも修正や代金減額に対応しないとする免責特約の交渉を制作会社が持ちかけてくる可能性があります。

発注者としては期間短縮や免責は不利なので、安易に応じるのは避けるべきです。取引条件を総合的に見ながら、慎重に検討してください。

損害賠償

納期遅延や契約不適合などによって損害が生じた場合は、制作会社に対して損害賠償を請求できる権利が民法で定められています。しかし、民法の定めが強制されるわけではないので、発注者と制作会社が話し合って損害賠償請求の対象や上限額を決めておくことも可能です。

しかし、「損害賠償額については、代金相当額を限度とする」といった条項で契約を締結してしまうと、発注者にとっては本来請求できる損害賠償額が制限されるので注意してください。

なお、ホームページ制作をしたからといって集客や売上向上につながるとは限りません。制作会社も通常は効果を保証していないので、成果が出ないことを理由に損害賠償請求をするのは困難です。

まとめ:トラブルを避けるためにWebサイト制作契約書を理解しましょう

ホームページ制作を制作会社に外注するときに交わす契約書は、トラブル予防のために重要です。

ホームページ制作で起こりやすいトラブルを知って、契約してから困らないよう事前によく話し合っておくことがトラブルを防ぐために欠かせません。

安心してホームページ制作を進められるように、契約締結前によく話し合い、トラブルを避けられる契約書を締結しましょう。